第11回ひろしま建築文化賞受賞作品
第11回ひろしま建築文化賞決定
本表彰は、一般社団法人広島県建築士事務所協会が平成9年から実施し、今回で11回目を迎えました。
優れた建築物として成果を上げた建築士事務所を表彰することで広島県内の魅力ある建築とまちづくりに貢献することを目的としています。
今回の応募作品数は一般建築等作品部門15作品、住宅作品部門1作品、建築再生部門4作品の合計20作品でした。
現地審査は3月3日と3月13日に行いました。その結果を踏まえて3月23日の第2回審査会において各賞を決定しましたので、以下にご紹介します。
【第11回ひろしま建築文化賞受賞作品】
| 賞 名 | 作 品 名 | 建築士事務所名 | |
| 大 賞 | molten [the Box] | SUPPOSE DESIGN OFFICE㈱
㈱フジタ広島支店一級建築士事務所 |
|
| 優秀賞 | 北広島町まちづくりセンター | ㈱あい設計 | |
| 優秀賞 | 上条(そらじょう)の家 | ㈲清水建築構造事務所 | |
| 入 選 | etto宮島交流館 | ㈱あい設計 | |
| 入 選 | ホテルご安航 | ㈱羽田建築設計事務所 | |
| 入 選 | コワーキングスペース巴屋・喫茶キナリ | ㈱原井隆建築設計事務所 |
【第11回ひろしま建築文化賞審査委員会委員】
| 委員長 | 細田 みぎわ | 広島女学院大学人間生活学部生活デザイン学科教授 | |
| 委 員 | 栗﨑 真一郎 | 広島工業大学工学部建築工学科教授 | |
| 委 員 | 福田 浩子 | 広島県立美術館学芸課長 | |
| 委 員 | 桜井 邦彦 | 株式会社中国新聞社編集局社会部記者 | |
| 委 員 | 豊田 隆雄 | 一般社団法人広島県建築士事務所協会会長 |
《第11回ひろしま建築文化賞受賞作品》
【大賞】 molten [the Box](一般建築部門)
[施設概要]
| ■建 設 地 | : | 広島市西区観音新町四丁目10-97-21 |
| ■用 途 | : | 事務所 |
| ■構造規模 | : | 柱:鉄筋コンクリート造+梁:鉄骨造
(FSRPC-B構法) 地上4階建て |
| ■延床面積 | : | 15,286.77㎡ |
| ■建 築 主 | : | ㈱モルテン |
| ■設 計 者 | : | SUPPOSE DESIGN OFFICE㈱
㈱フジタ広島支店一級建築士事務所 |
| ■施 工 者 | : | ㈱フジタ広島支店 |

撮影:Kenta Hasegawa
[推薦理由]
moltenの新社屋、開発センターである。敷地は、広島市内の海に近い大きな区画に建つ。ブランドを象徴する3つのラボとそれを繋ぐガラス張りのthe Studio(共同工作室)、試作をためすためのthe Court(体育館)などが、この箱の中に収まっている。
2次審査では、 [the Box]=moltenの社長のおもちゃ箱の様である、という感想が出た。決して小さくない4層の建築の中で、適切に材料を用いながら様々な試みを空間化して、合理的で退屈させない巧妙な配置計画がなされていることが評価された。
現場審査では、正面玄関を入ると、上部方向と右方向に視線が導かれた。目の前の大階段を上っていくと、2階に商品のギャラリー、3階に商品を試すことができるthe Court、その向こうには太田川放水路越しに対岸の風景が拡がり、夕日を臨むことができる。そして振り返ると、the Studio(共同工作室)での作業の様子がうかがえる。一方、1階大階段の横には食堂が設置され、その外側には焚き火エリアと畑があり、羊と戯れることができる外部空間もある。シンプルで美しいシルバーの外観からは想像しがたい中身が詰まった箱を後にすると、柔らかい羊毛の印象が残った。 (細田みぎわ)
【優秀賞】 北広島町まちづくりセンター(一般建築部門)
[施設概要]
| ■建 設 地 | : | 山県郡北広島町有田1234 |
| ■用 途 | : | 公民館 |
| ■構造規模 | : | 鉄骨造 地上2階建て |
| ■延床面積 | : | 1,730.83㎡ |
| ■建 築 主 | : | 北広島町 |
| ■設 計 者 | : | ㈱あい設計 |
| ■施 工 者 | : | 錦建設・SUMIDA特定建設工事共同企業体 |

【推薦理由】
平成の市町村合併から約10年が経過し,市町村行政の規模拡大に伴い様々な地域施設が再編成されてきている。特に人口の減少が著しい中山間部では,旧町村を一つの単位として,従来の公民館施設に様々な地域施設を複合化し新築・増改築する事例が見られる。そこでは,「多様な機能の混ざり合い」と「地域へ開かれた施設づくり」による地域の賑わいの創出が建築的課題となる。北広島町まちづくりセンターは,このテーマの範となる好事例である。
多目的ホールの周りに,まちづくりステーション,図書館の分館,研修室,会議室,和室,アトリエ,クッキングスタジオ等,様々な活動諸室が配置され,ホールとそれらの間をギャラリーとし,イベント情報や文化活動の発表,地域づくりに関する発信の場となっている。ギャラリーと連続した図書コーナーやまちづくりステーションの開かれたスペースは,床や天井の仕上げ,床下空調,ハイサイドライトにより,ほど良い賑わいと静寂さ,明るさとほの暗さ,暖かさを持った居心地の良い空間となっていると同時に,既存の文化ホールや北広島町庁舎,商工会議所,ショッピングセンターに囲まれた広場と連続し,入りやすい雰囲気をつくり出している。 (栗﨑真一郎)
【優秀賞】 上条(そらじょう)の家(建築再生部門)
[施設概要]
| ■建 設 地 | : | 豊田郡大崎上島町沖浦776 |
| ■用 途 | : | 住宅 |
| ■構造規模 | : | 木造 地上2階建て |
| ■延床面積 | : | 138.2㎡ |
| ■建 築 主 | : | 個人 |
| ■設 計 者 | : | ㈲清水建築構造事務所 |
| ■施 工 者 | : | ㈱河本建設 |
撮影:Tom Miyagawa Coulton
【推薦理由】
築年数80年を超え、10年以上住む人を持たなかった古民家を家族と住むために改修した作品である。改修は次のとおり明確な意図のもとで行われた。
まず、地元の大工や左官屋などに工事を発注することで地域と積極的に関わりを持つとともに、メンテナンスが必要になった際にはすぐに対応できる体制を作ることを意図している。また、今回の改修は今後の10年間を見据えたという。それはやがて巣立っていく子供たちとの時間を充分に楽しみたいという家族の思いが込められている。そして、母屋に生活機能を集約し、小さく暮らす一方で、外に目を向ければ瀬戸内海の絶景が広がるさまは建物のサイズ感を凌駕してしまう。
審査を通じて、建築物というものは、設計者や改修者、代々の居住者たちの思いを載せて生きていると感じた。瀬戸内海の離島では過疎化が進み、空き家の増加が課題となっているという。本作は、空き家対策、古民家の再生のひとつの答えを示しているのではないだろうか。こうして空き家だった古民家に、また新しい物語が書き加えられる。 (福田浩子)
【入選】 etto宮島交流館(一般建築部門)
[施設概要]
| ■建 設 地 | : | 廿日市市宮島町412番地 |
| ■用 途 | : | 市民センター |
| ■構造規模 | : | 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造
地上3階建て |
| ■延床面積 | : | 1,997.83㎡ |
| ■建 築 主 | : | 廿日市市 |
| ■設 計 者 | : | ㈱あい設計 |
| ■施 工 者 | : | 五洋・増岡・あい特定共同企業体 |

【推薦理由】
この建物は旧宮島町役場の跡地に公民館の用途と宮島の魅力を伝える為の機能を持ち合せた交流館である。
世界遺産宮島に建つ建築として、海から訪れる人々からの風景を考慮し、従来あった旧宮島町役場のシンボリックな外観から歴史的建造物を阻害せず背景となるような外観としている。
参道の商店街から路地を横切り小さなトンネルをくぐると、正面に街並みに調和した現代の建築が現れる。スケール感も抑え周りの木造建築とも調和し落ち着きを感じるファサードとなっている。
正面は大きなガラス張りではあるが、天然木の縦ルーバーを設ける事により、やわらぎを感じさせている。また外壁の塗り壁には本物のもみじを埋込み、訪れる人々に宮島としての魅力を感じさせてる。
玄関に入ると吹抜の大階段があり、展望デッキへと繋がる空間は、訪れる人にゆとりを感じさせる。
この宮島の地に、島内外の人々から親しまれる交流施設になると感じた。 (豊田隆雄)
【入選】 ホテルご安航(建築再生部門)
[施設概要]
| ■建 設 地 | : | 江田島市江田島町中央3-22-4 |
| ■用 途 | : | ホテル |
| ■構造規模 | : | 鉄筋コンクリート造 地上2階建て |
| ■延床面積 | : | 605.39㎡ |
| ■建 築 主 | : | 三興建設㈱ |
| ■設 計 者 | : | ㈱羽田建築設計事務所 |
| ■施 工 者 | : | 西部建設㈱ |
撮影 野村和慎
【推薦理由】
飲食を提供する場所を施設内にあえて設けず、 近隣の飲食店に宿泊客を誘導し、地域を活性化させようとしたアイデアに高い評価があった。和食や中華、お好み焼き店など多彩なジャンルの店が並ぶ一帯の回遊は魅力的であり、江田島の島外から来た人たちも楽しめそうだ。
建物は、元幼稚園の園舎をリノベーション。広さ、設備などで全20室をランク付けし、宿泊客のニーズに合わせた泊まり方ができるよう設計した。また、1階屋外には、料理やバーベキューを楽しめるスペースも開設。大人数での合宿的な利用もできる。牡蠣養殖業者から殻付きを仲介することも可能だそうで、今後、地元の農水産関係の業者とのタイアップも期待したい。利用客のニーズによっては、地元漁師や農家が食材を持ってきて出張料理をすることも可能かもしれない。
民家や飲食店が建ち並ぶ地域にあって、落ち着いた雰囲気の外観を維持し、町並みに溶け込んでいる。道路からの入り口がやや狭い気がしたが、これもまた、古い港町ならではの風情かと見直した。
立地が、海上自衛隊第1術科学校に近いため、学校行事がある際は、多くの利用が見込めるという。2021年3月の完成ということで、およそ2年にわたって新型コロナウイルスによる影響をダイレクトに受けた。そんな中でも稼働率は約50%と踏ん張っている。これからポストコロナの時代に入れば、設計当初に思い描いた地域貢献構想はきっと前に進んでいくだろう。設計時に描いた理念は、過疎が進む島しょ部や山間部でのリノベーションの参考になるはずである。 (桜井邦彦)
【入選】 コワーキングスペース巴屋・喫茶キナリ(建築再生部門)
[施設概要]
| ■建 設 地 | : | 三次市十日市中3丁目17-20 |
| ■用 途 | : | 事務所・飲食店 |
| ■構造規模 | : | 木造 地上2階建て |
| ■延床面積 | : | 482.37㎡ |
| ■建 築 主 | : | 個人 |
| ■設 計 者 | : | 原井隆建築設計事務所 |
| ■施 工 者 | : | ㈲市山工務店 |

【推薦理由】
コワーキングスペースは、就労空間を経済的に安く得られるシェアワークスペースとしての価値と同時に、職種や業種が異なる人々が、空間を共有することで、意見やアイディアを交換しながらコミュニティ形成や、新しいビジネスの創出を目指すことを目的に少しずつ全国に広がりつつある。特に人口5万人に満たない三次市のような地方都市では、後者の目的によるヨコのつながりとまちの賑わい創出が求められる。そういった意味で多様な年齢層の人たちの拠り所となり、旧市街地の活気づくりとしてこの小さな作品が生み出す「コト」が貢献している。特に喫茶とコワーキングスペースが、レベルによって空間を分節しながらも、気配が感じられる様な一体感をつくり出しているところが良い。
一方で石見銀山街道沿いの旧道に約140年存在した造り酒屋が、この改修により復活し、これからも使われ続けるという建築文化の「モノ」としての存続と継承も意義深い。うだつや化粧腕木を持つ全面ファサード、ハイサイドからの仄かな光に包まれる奥の土間、存在感のある欄間が新しくできたワーキングスペースや喫茶と調和し、居心地の良い空間をつくっている。(栗﨑真一郎)
現地審査

審査会

総評
審査委員長 細田みぎわ
第11回「ひろしま建築文化賞」は、文字通り「ひろしま」「建築」「文化」の側面から審査を行い、賞を決定していった。建築の設計行為は、社会状況を反映する。多様性の時代の中にあって「建築」的価値を一律に審査することは難しい。今回も1次審査の図面によるプレゼンテーションでは捉えられなかった部分を現地審査で明らかにし、2次審査でその提案空間の確認を行なった。入賞作品は、コロナ禍、SDGs、働き方改革などのキーワードをうまく建築化した作品であったといえる。
「ひろしま」らしさといえば、今回の入賞6作品中、半数は島(大崎上島、宮島、江田島)に建つ建築である。他2点は北部(三次市、北広島町)で、広島市内は1点のみとなり、その場所性により建築のプログラムやデザインにも特性が見られた。
また、「文化」の側面からは、
・文化継承というコンセプト(花田植えをイメージした「北広島町まちづくりセンター」、五重の塔の背後に埋め込まれた様に建つ「etto宮島交流館」、築140年の元造り酒屋を蘇えらせた「コワーキングスペース巴屋・喫茶キナリ」)、
・仕事場の多様化(羊と戯れることができる社屋「molten[the Box] 」、三次市で働くことができる「コワーキングスペース巴屋・喫茶キナリ」)
・地域おこしに関する建築(庁舎の横に住民の居場所づくりを実現する「北広島町まちづくりセンター」、江田島に建つ「ホテルご安航」)などが見られた。
そして、興味深いリノベーションの応募作品が増えてきた。今回、入賞6作品中、半分が建築再生部門からであった。新築とは異なり、既存建築をどのような方法で再生すべきかは条件により異なる。クライアントの要望、老朽化の具合、限りある予算によりどこで割り切るのかが問われ、その考え方が興味深い。例えば、「上条の家」は子供の成長とともに10年間小さく住むことをコンセプトにしている。しかし、選考となると審査基準を定めることが難しく、難航した。現地審査後の2次審査は票が割れ、私は今回で4回目の審査員であったが、最も難しい審査となった。
今後も島しょ部の建築や再生部門の建築は増えていくだろう。リノベーションを含め新しく生み出される良い建築が、都市部に集中する時代ではなくなっている。地域おこしに一役かっていた建築は、今や公共建築にとどまらず住まいや仕事場にも及ぶ。コロナ時代を経て、変化しつつあるライフスタイルの多様性が垣間見えた。